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日本海洋文化総合研究所

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AOYA TODAY! FESTIVAL 参加記

2025年11月1日(土)に開催された「AOYA TODAY! FESTIVAL」(鳥取市青谷町)に行って来ました。

青谷町にある長尾鼻灯台を会場に音楽フェスを開催するというのがこのイベントの趣旨。スペシャルゲストに元ちとせさんを迎えての一大イベントでした。

しかし心配されたのは当日の天気です。前日は土砂降りの雨で、天気予報でも当日は雨とのことでした。小雨決行、荒天なら中止と事前にアナウンスされていましたので、参加者の私もそわそわしていました。

ところが当日は幸いなことに一転して秋晴れの空に。会場は多くの来場者で賑わいました。

写真1 灯台見学に列をなす来場者

さて会場となった青谷町は、弥生時代の遺跡である青谷上寺地遺跡の存在で全国的に広く知られています。ここからは数多くの木製品が出土したのに加え、多くの人骨も見つかりました。
この遺跡は低湿地にあり、遺物にとって良好な保存環境だったからです。

というのも青谷町の平野部は、かつて海が入り込んだラグーンとなっていて、遺跡はそのほとりに位置した港町であったと考えられるのです。
遺跡からは海外との交易を物語る遺物、例えば中国で作られた武器「素環頭大刀」や貨幣「貨泉」などが見つかっています。

近世になると青谷は北前船の寄港地としても栄えました。北前船とは日本海を行き来した交易船のことで、青谷は北前船からもたらされる様々な文物の取引によって繁栄しました。
今日でも青谷町の市街地には当時の様子を彷彿とさせる街並みが残っています。

こうした港町としての青谷町にとって重要な役割を果たした場所が、この長尾鼻灯台が立地する長尾鼻の岬です。
その名の通り、日本海にぐっと突き出した岬の地形は、船乗りにとっては港の位置を知る絶好の目印となったことでしょう。

写真2 弥生時代の一大集落遺跡・青谷上寺地遺跡

さてフェスもいよいよ盛り上がりを増す午後一時。本来だとここでスペシャルゲストの元ちとせさんの出番なのですが、急に天気の様子が変わり、強風が吹きすさぶとともにパラパラとにわか雨まで降り始めました。

そこで急遽、プログラムの変更となり、「オンガクお嬢」こと日本海テレビのアナウンサー、中尾真亜理さんの司会による「お楽しみ!灯台クイズ!」の時間に。
「長尾鼻灯台を活用するには、どうしたらいい?」など、会場を巻き込んでのクイズに盛り上がったところで嵐もおさまり始め、いよいよ元ちとせさんの登場です。

ギターの伴奏のみで彼女は歌い始めます。するとそれまで空を覆っていた雲の切れ間から太陽の姿が現れ、会場を明るく照らし始めます。
マイクを手に、舞いながら歌う彼女の姿は、あたかも古代のシャーマンのようです。風は相変わらず強烈に吹きすさびますが、歌う彼女とそれを前にした聴衆は不思議な一体感に包まれました。


会場を後にした私は、いつしか強風がおさまり、おだやかな秋晴れが広がっているのに気付きました。長尾鼻で体験したあの異様なテンションがまるで夢だったように感じられます。

しかし思い起こせば、日本海に突き出したあの岬は、強風に吹きさらされ波に洗われながら、これまで何百年、何千年にもわたって沿岸を行き来する船や賑わう港町の様子を見守ってきたのでしょう。それを「パワースポット」と表現するとあまりに陳腐かもしれません。

しかしこの日、ここで音楽と人とが一体となる体験を多くの人たちが共有したことは、この場所の歴史にとっても意味のある一コマになったのではないでしょうか。


理事 石村智