一般社団法人
日本海洋文化総合研究所

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旅の目的地としての灯台が創る未来 〜海と灯台学カンファレンス2025 開催レポート〜

2025年10月20日、東京都千代田区麹町にあるTOKYO FMホールにおいて、一般社団法人海洋文化創造フォーラム主催の「海と灯台学カンファレンス2025」が開催されました。

テーマは「旅の目的地としての灯台が創る未来」

当研究所は、企画・運営などで協力し、池ノ上代表理事、栗原理事、石村理事がそれぞれ企画・コーディネートを担当しました。

会場に到着すると、すでに主催メンバーが設営の真っ最中。音響や映像のチェック・細かな調整まで抜かりなく進められており、「プロの演出とはこういうことか」と思わず感心してしまいました。この日のために寝る間も惜しんで準備してくださったことを思うと、感謝の気持ちでいっぱいになります。

登壇者の皆さんもそれぞれリハーサル行い、さらには舞台裏では大内事務局長がアナウンス練習に奮闘。アナウンス経験は初めてにもかかわらず、「やると決めたら全力投球」の彼女は、本番前に食べる予定だったお弁当にほとんど手をつけず、懸命にトライしていました。

開場とともに少しずつ席が埋まり、いよいよスタート。

○主旨説明

池ノ上氏より、カンファレンスの主旨説明がありました。

昨年度の取り組みを振り返りながら、今回の3つのセッションがどのような経緯で企画されたのかを紹介。池ノ上氏は、「海と人とをつなぐシンボルである灯台が、現代や未来の人々・地域とどう繋がり直せるか。その可能性を探るために、「旅」という視点を掛け合わせて考えていきたい」と参加者に語りました。

○セッション0 「海と灯台学の地平」

日本財団海洋事業部常務理事の海野光行氏と直木賞作家の門井慶喜氏による対談が行われました。これは、interfmのラジオ番組「OCEAN BLINDNESS〜私たちは海を知らない?〜」(https://www.interfm.co.jp/ocean)のゲスト収録として実施されたものです。

日本の灯台の父、リチャード・ヘンリー・ブラントンにまつわる知られざるエピソードや、門井氏がもし灯台を題材に小説を書くとしたら…など、興味深いトークで会場が盛り上がりました。

灯台に関わる人々についてのお話を通じ、近代灯台の整備が、海の見方や技術、そして「世界とのつながり方」までを変える大きな転換点だったことが伝わりました。同時に、これからの時代において、どのようなものが人の価値観をゆさぶるような存在となりうるのかを考えるきっかけとなりました。

○セッション1「灯台観光が開く地域の未来」

池ノ上氏が進行を務め、株式会社美ら地球代表取締役の山田拓氏がインスピレーショントークを担当。池ノ上氏と海と灯台プロジェクト総合プロデューサの波房氏がパネリストとして登壇。旅で訪れたい場所に共通する要素や、旅が人にもたらすものなどついて議論しました。

このセッションで印象に残ったのは、観光まちづくりをレストランに見立てたお話です。地域には、まだ知られていない魅力がたくさんあります。それを見つけ出すのが「目利き」、そして魅力を形にして人に伝えるのが「シェフ」です。人々が訪れたくなるまちには、この目利きとシェフのような存在がとても大切であると感じました。

○セッション2「灯台観光は人や地域を幸せにするか:灯台の足下を生かすジオパークの取り組み」

栗原氏がコーディネートを担当。和歌山県立南紀熊野ジオパークセンター主査研究員の福村成哉氏と一般社団法人隠岐ユネスコ世界ジオパーク推進機構認定ガイドの福田貴之氏が、それぞれの地域での取り組みと灯台との関わりを紹介しました。

コメンテーターとして池ノ上氏、波房氏、山田氏が参加し、ジオの視点から、灯台を通して旅人に伝えたい地域の価値や、旅人により気づく新たな地域の価値について意見交換が行われました。

議論の中で、全国に広がるジオパークと灯台には、共通の課題があることが指摘されました。それは「どのように巡ったら良いのかわかりにくい」ということです。その解決のためには、灯台だけでなく、その周辺にある地質遺産、自然遺産、文化遺産なども含めた地域資源同士の「連続性(ストーリー)」を見つけ出すことの大切さが語られました。地質学の観点と灯台学が組み合わさることで、互いにとって新しい活用の可能性が生まれるのでは——そんな期待を感じました。

○セッション3「灯台観光を基軸とした新たなコラボレーション:人、場所、ストーリーをつなぐ」

石村氏がコーディネートを担当。当研究所研究員の高野宏康氏と京都府教育庁指導部文化財保護課の稲穂将士氏が登壇し、日本海側に眠る歴史と灯台のつながりについて発表しました。

こちらもセッション2と同様の3名がコメンテータとなり、近世以前に蝦夷地(北海道)から大阪を結んだ経済動脈であった北前船を通じて、日本海側の地域全体やそれぞれの港・地域を理解していくことの重要性について議論されました。

ひとつのテーマを軸に旅をすることで、これまで見えなかった地域の魅力が新たに見えてくる−−

このような手法は、現在さまざまな分野で用いられており、北前船をテーマとした旅もその一つと言えます。

登壇者である高野氏が関わる団体の取り組みでは、テーマに沿って旅を楽しむだけでなく、広域での旅のあり方を模索中とのこと。北前船の歴史や文化にゆかりのある港を巡ることで、これまで観光地としては注目されてこなかった地域にも足を運ぶことができ、新たな地域の魅力を発見することができます。

この発想は、海沿いに点在する灯台にも応用できる考え方だと感じました。さらに、北前船の歴史や文化と灯台とがコラボすることで、新たな旅の可能性が生まれるのではないかという気づきもありました。

詳細については、ライターの佐藤真生さんが記事を準備中です。

後日公開予定ですのでどうぞご期待ください!

フェロー 石丸優希